ガスシールドアーク溶接の活性ガスとは

 ガスシールドアーク溶接は、大別して非消耗電極式と消耗電極式にわけられます。
 非消耗電極式とは電極はアークを発生させるだけに用いられ、それ自体が溶融することのない方式で、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接がこれに含まれます。
 消耗電極式とは電極はアークの発生に用いられると同時に、電極自体が溶加材として溶融、消耗する方式です。消耗電極式にはフラックスでコーティングされた溶接棒を用いる被覆アーク溶接、シールドガスを用いたガスシールドアーク溶接があります。
 更に、ガスシールドアーク溶接はシールドガスにArやHe、H2等の非活性ガスを用いたMIG(Metal Inert Gas)溶接、酸素や二酸化炭素を含む活性ガスを用いたMAG(Metal Active Gas)溶接に分けられます。
 ここで、シールドガスを用いる意味を思い起こすと、なぜ活性ガスを使用するのだろうと思いませんか?金属が酸化したり、大気中の窒素が溶融金属に溶け込まないようにするなら活性は無いほうが良い気がしませんか。

シールドマン!!

 鉄工所ではシールドガスとして二酸化炭素100%を用いたMAG溶接が一般的で、「炭酸ガスアーク溶接」と言ったりします。
 このシールドガスの役割ですが、溶接の教科書を開くと「鉄は非常に活性が高い金属であり、アークで溶融したエネルギーの高い状態では周囲の酸素と反応してしまう。このためシールドガスで外界から遮断する」と書いてあります。
 しかし、活性ガスとは酸素や二酸化炭素です。二酸化炭素であれば酸素から遮断できそうですが、こと酸素に至っては目の敵とする相手です。そしてよく見ると二酸化炭素だって、CO2分子のなかに酸素が含まれています。避けたい相手をわざわざ使うというのには、何か訳がありそうです。
 そもそも活性ガスは溶接を行ううえで、どのように作用するのでしょうか?どのようなメカニズムなのでしょうか?WES(溶接管理技術者)の教科書である『溶接・技術総論』を開いても溶接効率が上がるからとか、ビード形状が向上するからとあるだけで、なぜそうなるのか理屈が書いてありません。理論が書かれていれば、技術的な応用も効くと思うのですけど。理論もなく、「だまって納得しろ」と言われて、おとなしく納得する訳にはいきませんよね。

 そこで、自分で調べてみました。
 まず、アークというものは電極と母材の間に発生する電離した気体で、プラズマの一種です。炭酸ガスアーク溶接では、炭酸ガスがプラズマの材料になりますし、Ar+O2ガスシールド溶接であればArがそれになります。
 プラズマは10000~16000℃(太陽の表面温度が約5500℃)という超高温です。
 この環境では二酸化炭素はCOとO・(その後O3を生成)に分解されます。Ar+O2ガスではO2がO・(酸素ラジカル、活性酸素)となります。O・は非常に酸化力が強い物質です。それに加え、高温となった金属も反応性が高くなっています。おのずと活性ガスを含んだシールドガスに接触している母材は酸化されます。
 酸化されないようにシールドするのだと言われると、この状態は良くない状態のような気がします。でもこれは「アークの発現」ということを考えると単純に「Yes」だとは言えません。
 「酸化状態」というのは、よりたくさんの電子を抱え込んだ状態です。つまりプラズマの材料である電子を沢山持った状態です。ですので、非酸化状態の鋼と比べ相対的に少ないエネルギーでプラズマを発現させることができるようになります。活性ガスをシールドガスに混ぜる(二酸化炭素であれば活性ガス100%)ことでアークを安定して発現させることができるようになります。
 また、酸素が分解する反応や二酸化炭素が分解する反応は吸熱反応で、かなり大きな熱エネルギーを周囲のアークから奪い取ります。するとアークは熱エネルギーを失い「熱的ピンチ効果」が作用して細く集中したアークになり、深い溶込みが得られるのです。
 では酸化物はどうなるのでしょう。酸化物は融点の非常に高い物質ですから、溶融池で析出します。酸化物が分散した溶融金属は粘々した液体の中にサラサラした酸化物の粉末が分散した状態なので見かけの粘性が低下し「湯流れ」が向上し、ビード形状が良くなります。また、分散した酸化物は比重が5.3(酸化鉄)、一方の鋼は7.9なので酸化物は溶融池の表面に浮かび、冷却され凝固しスラグとなります。このため、理論上はスラグは内部に巻き込まれず、表面に集まります(実際はパス間に取り残されたスラグが内部に残留して「スラグ巻き込み」という欠陥になったりします)。
 しかしアルミニウムやマグネシウム合金などの金属は非常に酸化されやすい金属ですの。シールドガスに酸素が含まれると交流溶接で酸化被膜を吹き飛ばしても、酸素があれば瞬時に酸化被膜が生成されてしまうので、これらの金属の溶接では活性ガスはシールドガスとして使うことはできません。

 鉄骨とか溶接の教科書って、「こうするとああなる」とはかいてあるのですが、「なぜ、そうなるのか」って部分がマルっと欠落しているものが多いんですよね。
 もともと、化学系だった自分としては、そこが一番大事だと思うんですが...

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